乙女の書庫。

見たり読んだりしたものの覚え書き。

BLとは「関係性をみずみずしくとらえる作業」『俺たちのBL論』

今日の感想はこちら。

 

俺たちのBL論

俺たちのBL論

 

 

簡単に説明すると、腐男子のサンキュー・タツオさんがBL初心者の春日太一さんに「BLとはなんぞや?」と教えていく本です。

 

タイトルに書いた

 BLとは「関係性をみずみずしくとらえる作業」

は、この本の対談でBLに目覚めた春日太一さんのお言葉。

今まで、こんな素敵な言葉でBLを定義したことがあっただろうか…。

しかも、男性の口からこれが出てきたということが凄い。

 

大変面白く読みました!

自分の経験と照らし合わせながら読んだので、自分を見つめ直して、「あれっ、私ってBLではこういう設定が実は好きだったんだ?!」という新たな発見もありました。

 

感想を書こうと思って付箋を貼って読んでたのですが、貼った付箋の数は33枚にもなったよ…。

それらについて全部言及しようと思うと、記事を何個かにわけなくてはならないぐらい長文になってしまうので、簡単に。

 

「BL」と「やおい」、「オタク」と「腐女子」の違い

世間では混同されがちな、この違いについて説明されていたのは良かったです。

でも、「やおい」という言葉、今の若い子は使うのかな?

既に死語な気もします。

 

萌えには「キャラ萌え」と「関係性萌え」がある

これには、すごく腑に落ちました。

私、2次創作の同人誌を買う時、「キャラとしてはAが好きだけど、カップルとしてはB×Cの方が萌える」というのがたくさんあって、どちらかというと好きなキャラの本より、萌えるカップルの方が同人誌で読むのが好きだったりします。

それって関係性萌えだったんだな、と今になって思います。

 

「腐」とは余白と補完の知的遊戯である

こちらも本の中にある名言ですが、本当にそう思います!

これは2次創作についてですが、1人のキャラ、1つのカップルでも、腐女子から見たら色々な解釈があって、そのキャラのどこにスポットをあてるかによって、全然違うストーリー(妄想)を作り出せるんですよね。

本の中にもありましたが、自分が好きなカップリングしか認めなくて、それ以外のカップリングを拒否する人もいるのですが、私はその辺はかなりゆるい思考だったので、1つの作品の中でも色々なカップリングを読んでました…。

自分が思いつかなかったカップリングを読むと「おお、そういう解釈の仕方があったか…!」「このキャラにはこういう一面があったのか…!」*1と思ってしまって、色々な同人作家さんの解釈を知るのが面白かった。

 

なんで男同士なのか

たぶん、BLに興味ない人も、腐女子も1番知りたいのはこれですよね。

当事者の私でも、なんでBL好きなのかわからないし、永遠の謎です。

本の中で、タツオさんに教育されて春日さんが段々BL好きになっていくのは、わかりやすいですが、私の場合、最初から抵抗無く読めたし。

 

自分でもBL好きなのが不思議で、その答えを探しに、以前にもこういうBL論的なものを読んだのですが、ジェンダー論とか「女性は抑圧されているから」みたいな本が多くて、全然ぴんと来なかった。

 

この本の中では、

  • 男×女だとどうしても女が受け入れる側になってしまう
  • 男×女では恋愛以外の関係性に持っていくのは難しい
  • 男×男だとお互いが対等な関係で描ける
  • 男×男だと関係性にバリエーションがある
  • 男×男だと女性の自分は関係ないので一歩引いたところから読める

などの説が書かれていて、たしかに頷けます。

作家のあさのあつこさんも「男×女では関係性が決まってしまうけど、男同士だと恋愛以外の関係性が書ける」みたいなことを仰っていたのを、どこかのインタビューで読みました。(うろ覚えなので間違っていたらすみません。)

 

ジェンダー論よりはしっくりきましたが、これが全てかというと…?

 

私の場合、男性が傷ついたり悩んだり追いつめられたりする精神のギリギリなところが見たいというのもある気がします。

少女漫画だと、主人公の女の子の心理描写はあるけど、相手の男の子の心理描写はなかなかないので。

 

初心者にBL本を薦めるなら何にするか

これ、いつも悩みます。

1冊目に読んだものがつまらなかったら、もうBLに興味がなくなってしまうので、面白がってくれそうなものがいいですよね。

この本の中では、中村春菊の「世界一初恋」「世界一初恋」、中村明日美子「同級生」シリーズ、水城せとなの「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」でした。

 

私、中村春菊苦手なんですよね…。

世界一初恋」のシリーズは読んだことがないので、もしかしたら面白い可能性もありますが…。

 

あと、「窮鼠は〜」のシリーズは、作者のお2人は「内面描写が凄い!」と絶賛されていましたが、これも私は苦手で。*2

読み応えはありますが、ドロドロしていて、恋愛に執着しているかんじが女々しく感じてしまって。

BLというよりレディースコミックを読んでいる気分になってしまいます。

 

だから、私が薦めるならこの2つはないな。

 

私が3冊選ぶなら、タツオさんも薦めていた中村明日美子「同級生」シリーズ、寿たらこの「コンクリート・ガーデン」、高永ひなこの「恋する暴君」にするかも。

 

「同級生」シリーズは、本の中でも同じことが書いてありましたが、少女漫画の延長線上に読めそうなので。

1冊めでいきなり、出会い→セックス*3にならなくて、何冊かかけて徐々に恋が深まっていく様子も、初心者には読みやすいのではないかと。

 

「コンクリート・ガーデン」はSFなので、特殊な設定の方がファンタジーとして男同士ということに抵抗なく読めそうだから。

 

恋する暴君」も少女漫画の延長として読めそうな絵柄だし、なにげに心理描写が凄い。

さすが10巻も続いているだけあって、登場人物の心理戦がガッツリ描かれています。

でも、レイプまがいの行為が最初の方にあるし、主人公の森永くんはめっちゃ恋愛脳なので、駄目な人は受け付けないかも…。

 

「腐」とは個人的なもの

これも本の中に書いてありましたが、本当に個人的なものなんです。

だから、この本に書かれていることが全てではないし、もちろん異論反論もあります。

 

本の中にあった無機物萌え(鉛筆×消しゴムとか)を腐女子が全員しているかというと、違います。

そんなこと、私は考えたことないです。*4

街中であやしい2人の男子を見ても、そこで妄想なんてしたことないです。

 

腐女子が漫画や小説を読んで、なんでもかんでもBL的妄想をするかというと、それも違います。

BLではない普通の本を読んで「あー面白かった!」で終わる作品もあるし、「むむ、こいつら萌える…!」と腐女子スイッチが入る作品もある。

私は前者の普通に読むパターンの方が多いです。

BL以外の本で腐女子スイッチが入ることなんて、全体の1パーセントもないのでは。

私はなかなかスイッチが入らないタイプだけど、逆にいつでもスイッチ入りまくりな人もいます*5

 

わたしはオリジナル作品のBLもやおい(2次創作*6)もどっちでもいけますが、その片方しか好きじゃない人もいます。

実際、やおいは好きだけどオリジナル作品のBLは読まないという人はけっこういます。

 

オリジナル作品のBLの消費の仕方も、少女漫画と区別なく「恋愛もの」として読んでいる人もいれば、かっこいい男性がたくさん出てくるから好きという人もいるでしょうし、性描写激しめの作品も多いので単なるエロ本として読んでいる人もいると思います。

 

だから、BLに今まで興味がなかった人がこの本を読む場合、この本は本当に「入り口」だと思ってください。

あくまで作者の2人が考えるBL論なので。

 

余談

BL年表に

98年「ANIMAL X」杉本亜未徳間書店

とありましたが、正しくは92年に角川書店から出たのが最初では。

「ANIMAL X」は、角川書店徳間書店白泉社と色々な会社から出ていますが、角川書店版以外は再録か、再録+新作だったはず。

 

あと、年表にCJ Michalskiの漫画が入っているのも謎だ。

この人の漫画好きだけど、年表に入るほどすごい売れたとかBL業界が盛り上がったという記憶は無いのですが、私が知らないだけ??

 

*1:もちろん、勝手なキャラ付けをするのではなく、原作の中にある「ヒント」を拾い上げて、その一面にスポットをあてることによって新しい解釈のキャラ付けができる。

*2:水城せとなの他の作品は好きです。

*3:最近のBLは1冊で即セックスになるので、この風潮には物申したい。これを書き出すと長くなるので、別の機会に。

*4:「妄想しろ」と命令されたら、考えることはできます。

*5:私の友人は、漫画でも小説でも映画でも、「腐」要素があるものは何でも好きで、あらゆる「腐」要素のあるものをチェックしていた。

*6:更に補足すると、この本の中では女性が書く2次創作は男同士の恋愛ものしかないような誤解を与えますが、ギャグや普通の友情話、日常の話などの恋愛じゃないものもあります。また、恋愛でもノーマルカップリング(男×女のカップリング)もあります。